今まで戦後日本とキプロスの預金封鎖について紹介し、今後日本で再度預金封鎖が行われる可能性について論じてきました。
実は預金封鎖を行った国はその他にも多く存在しているのですが、意外なことに超大国である米国もかつて世界大恐慌期の1933年に実質的な預金封鎖である突如とした銀行休業と悪名高き『金』の強制供出という措置が行われました。
今回は過去の米国の事例を紐解いた上で、日本のように今後米国でも預金封鎖が発生する可能性を検証していきたいと思います。
Contents
過去の米国の緊急銀行救済法と金供出法
それではまず過去の米国の預金封鎖の事例と金供出法について見ていきましょう。
1933年当時の米国の経済状況
米国は第一次世界大戦の勝利の好景気による過剰設備投資による過剰生産能力と株価の上昇で1920年代は好景気に沸いていましたが、需要が追い付かなくなり株価がバブル的な水準に達していました。
あれ、なんだか2015年にはじけたチャイナバブルに非常に良く似ていますね。
膨らんだバブルがはじけるのは古今東西不変の事象で1929年10月24日に後に『暗黒の木曜日』と称される株式市場の大暴落を発端として名高い世界大恐慌が勃発しました。

まさにジェットコースターですよね。。
そもそも需要が供給に追い付いてなかったので、不穏な空気はながれておりましたが、株価高騰で資金を集めて設備投資を行っていた企業としても、いきなり資金が集められなくなり不況に陥ります。
この不況が当時のフーバー政権の不況下での増税や金融引き締めという景気後退期には不適切な政策のせいで長引くこととなり、不況の収束には1933年に就任したルーズベルト大統領のニューディール政策が効果を及ぼす1936年まで続くという大不況となったのです。
ルーズベルト大統領により突如実施された銀行封鎖
1930年から南部諸州、テネシー州、ケンタッキー州のいくつかの銀行で取り付け騒ぎ、銀行破綻が起こり、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボストンという主要都市にまで取り付け騒ぎが拡大、1931年にはシカゴ、1933年にはセントルイスへと全国規模で拡大していきました。
このような状況を受けてフーバー大統領に代わって就任したルーズベルト大統領は就任から2日後の1933年3月6日に、4日間米国の全ての銀行を閉鎖すると発表しました。
銀行閉鎖ということで実質的な預金封鎖に該当しますが、日本やキプロスの例とはまた毛色が違い預金課税は実施されませんでした
緊急銀行救済法の意義
通常であれば銀行封鎖は愈々まずいのではないかと国民が思うところですが、3月6日以前に既に多くの州で銀行が封鎖されていたことや、この行動で政府が銀行破綻を食い止める行動に移ったことを示したと受け止められ大きな騒動にはなりませんでした。
そして、銀行封鎖から3日後に大銀行が小銀行の破綻に引きずられないことを主軸とした緊急銀行救済法が可決されました。
緊急銀行救済法では財務省が営業再開前に監査を行うこと、経営危機に陥る恐れのある大銀行を政府が支援して救済することが示されました。
結果的に4分の3の銀行は、緊急銀行救済法可決後3日以内に営業を再開し、金融危機は回避されたのです。
ルーズベルトによる金の強制供出法
さらにルーズベルト大統領は約1カ月後に大統領令を発行し、米国人並びに米国法人が金貨、金塊及び金の延べ棒をもつことを禁止しました。
当時は世界的に金本位制の時代で、政府は現在と違い保有する金に応じた量しか紙幣を発行することができなかったのです。
世界大恐慌で沈みきった景気を浮揚させるために、積極的な財政政策を打たなければならなかった政府は、財源を捻出するために大量の金を必要としていたのです。
米国は広大であったため、森の中に隠したり、湖底にしずめたりして隠した人々がいましたが、警官によりくまなく調べられ、発見された場合は10年以下の懲役刑に処されるという厳しいものでした。
ちなみにこの政策は1970年代まで継続され米国人は金を保有することが実に40年近く禁止されたままだったのです。
今後米国で預金封鎖が実施される可能性はあるのか?
ここからが本題となります。今後米国で預金封鎖が実施sあれる可能性があるのかという点について考えていきたいと思います。
マネタリーベースの膨張
まず日本の預金封鎖が発生する可能性でも述べましたが、多かろう安かろうは古今東西の鉄則で多くあふれているものの価値は下落しています。
では米ドルの発行額であるマネタリーベースの推移はどうなっているでしょうか。以下図をご覧ください。
(引用:アイザワ証券)
米国のマネタリーベースは緩和のフェーズが終了して縮小傾向で現在では350兆円程度となっており、現在は500兆円に迫る日本のマネタリーベースより小さいですね。
そもそも経済規模が日本の3倍大きいことからも、日本のマネタリーベースが異常であることがわかります。ちなみに、日本と比較すると小さいようになりますが1971年のニクソンによる金本位制からの離脱以降約40倍になっているのです。
十分大幅なインフレになる余地は整っています。
しかし日本のほうが危険であり、米国は成長していること、米国中央銀行が2017年2月からバランスシートの縮小政策を実施しており低下傾向にあることから直近の懸念事項とはならないでしょう。
財政問題
預金封鎖の二大発生要因である急激なインフレと財政破綻のうち、急激なインフレの喫緊の可能性は否定しましたが、では米国の財政破綻は起こりうるのでしょうか。
よく報道では、米国の債務上限問題などと聞いて危ないなという印象を持っている方もいらっしゃると思います。
(IMF World Economic Outlook Databaseより筆者作成)
確かに米国は金額ベースでは世界一の債務国ではありますが、経済規模から考えた対GDP債務は100%を超えたところというレベルで高いには高いのですが、日本と比べるとまだましといったレベルです。
債務の返済可能性が今後どうなっていくかということにおいて最も重要なのは、稼ぐ力つまり経済成長力と債務の伸び率の大小関係です。
例えば現在借金を1,000万円抱えていて年収1,000万円の人がいたとします。翌年借金が1,200万円に増えていたとしても、年収が2倍の2,000万円に増加していたら借金の返済可能性が高くなったと言えますよね。
現在の米国のGDP成長率は2%~3%なのですが、債務の成長率はどうなのかという点を以下の2018年10月から2019年9月の予算を見て考えてみましょう。
(引用:外務省)
新たな債務は1兆ドル(110兆円)、つまり現在の債務総額が200兆円なので5%のペースで増加していっていることがわかります。
GDP成長率2%~3%に対して債務の成長率が5%なので、対GDP比の債務は拡大の一途をたどり、このままの状況が続くのであれば年々財政懸念から米ドルの信認がさがっていくでしょう。
財政問題補足ー国債保有者の中身
更に米国の債務は欠陥を抱えています。それは海外保有者比率の高さです。
日本は皆さんご存知の通り、日本政府の借金を国内で賄っています。たとえるなら親が子供に借金しているという感じですね。
(引用:日銀の資金循環統計)
一方、米国は外国特に中国と日本に多く国債を引き受けさせています。

(米国財務省資料から管理人が作成)
国債の保有者の比率が外国人が30%とブラジル等の新興国と同じ比率となっています。また特筆すべきは日本と中国の割合の高さですね。
それぞれ5%~6%ずつ保有しております。
肝心の日本は財政危機を抱え今後米国債を取り崩さなければいけない局面がくる可能性がありますし、中国もいつ過剰設備・投資過剰の経済構造が崩壊し失速し膨大する民間債務の返済に取り崩さざるを得ない事態にならないとも限りません。
仮に日本や中国をはじめとした諸外国が米国債売に動いた場合には、国債金利が上昇していくこととなり利払費が嵩んでいきます。
国債の利払費が1%上昇するごとに利払い費はなんと20兆円も増大していくため、急速に財政が悪化していくという状況になっています。
また日本や中国にしても米国債の価値が下がると自国の資産価値の減少にもなりますので、正に日米中は一連托生の関係にあるともいえますね。
米国での預金封鎖の可能性
財政は悪化の一途をたどっているため、今後財政破綻懸念から米ドルの信認が低下して、悪性のインフレが発生する可能性は高いと考えられますが、では預金課税が行われる可能性があるのでしょうか。
当然預金課税を行うということは、その原資となる国民の資産が借金の額に見合った金額あるのかということが重要になってきます。
以下日銀が発表している日米欧の家計資産をご覧ください。
(引用:日銀『資金循環の日米欧比較』)
米国の2017年末の政府債務は21兆ドルであるため、米国の家計資産77兆ドルというの十分な金額であるといえます。
むしろ、資産課税を行うことにより借金を減免しやすい金額といえます。では課税対象となる人なのですが、おそらく富裕層に限定されたものとなると考えられます。
現在米国では貧富の差が拡大しており上位1%の所得が全体の20%を超えるという社会となっております。少し前に我々は99%だというデモがNYで行われていたのは記憶に新しいですよね。
つまり富裕層のみの課税にすることで、借金返済と国民感情を宥めるという二つの効果を得ることが出来るのです。
米国の預金封鎖の可能性を考えた上での対策
このままの財政状態が続いた場合、米ドルの信認低下によるインフレで解決するのか預金課税まで手を出すかはわかりませんが、いずれにせよ超大国といえども海外資産といえど米国資産に偏重するのは得策とはいえません。
以下ランキングではリーマンショク時でも、安定した運用成績を収めているファンドなどを紹介していますので参考にしてみてください。
