今まで日本が預金封鎖に陥る可能性と以前戦後に日本で起こった預金封鎖の事例について見てきました。
今回からは世界の以前の預金封鎖の事例について紹介したいと思います。初回は最も最近2預金封鎖を行ったキプロスの事例について見ていき、日本で起こった預金封鎖との違いについて紐解いていきたいと思います。
- キプロスの預金封鎖は肥大化した国内銀行の経営難の救済の為に行われた。
- キプロスの預金封鎖では過去の日本同様富裕層に対して預金課税が実施された。
- キプロスの預金封鎖も突如実施された為、国民は大混乱に陥った。
- 預金封鎖を免れる為には海外資産をもつことが肝要。
Contents
キプロスの事例
キプロスは2013年というわずか5年前に預金封鎖を行った事例を有する国です。
キプロスの概要
まずキプロスという国の名前にあまり馴染みがないという方もいらっしゃると思うので、概要を整理します。
【国名】キプロス共和国
【地理】キプロスはどこにあるかというと地中海の中にあります。
(引用:外務省)
【人口】84.7万人
【GDP】163億ユーロ (約2兆円)
キプロスは小国で、私の出身の奈良県のGDPは3.5兆円もあるので、奈良県のGDPの60%しかない小国ということですね。
預金封鎖までの経緯
キプロスは上記でみた通り小国ですが、税率が低いタックスヘイブンということもありロシアの富裕層からの資金がキプロスの銀行に資金をプールしていきました。
何故ロシアからなのかということなのですが、これはキプロスがロシアと結んだ租税条約がキプロスで課税されたものについてはロシアで二重課税されることはないというものであった為、ロシアから流れ込んできたのです。
更にキプロスは英国法を採用し、英国法に精通した弁護士と公認会計士が多数居住しインフラが整っていたことも資金の流入を加速していったのです。
その結果GDPの4倍の規模の預金口座額をキプロスの銀行が保有しておりました。
そしてキプロスの銀行が、あろうことかギリシャ国債を用いて運用を行っていたため、ギリシャ危機発生に伴いギリシャ国債価格が暴落し集めた資産の運用で巨額の損失をだし経営危機に瀕しました。
通常であれば政府が救済に乗り出して難を乗り切ることができるのですが、如何せんキプロスの銀行はキプロスの経済に比して巨大である為、政府も救済しようにも救済できなくなっていたのです。
そこで、キプロスはEUに助けを求めるのですが、EU最大の納税者の身にもなって考えて見て下さい。
自分たちが必至に働いて納税した税金を、小国とはいえ資金逃避に使われているキプロスのしかもキプロスの失態の穴埋めに使われるのは心理的にも受け入れがたいものがあります。
その為、EUはキプロスに対して銀行預金に課税して58億ユーロを捻出することを条件に100億ユーロの支援を行うことを要請しキプロスは銀行口座を凍結しました。
預金課税については、一度は議会で否決された預金課税でしたが、キプロスに選択肢はなく結局は預金課税を受け入れることとなったのです。
- 2012年6月25日:キプロスから欧州連合に緊急融資を要請。
- 2013年3月15日:銀行預金への課税を条件に100億ユーロのキプロス支援策を決定し銀行口座を凍結
- 2013年3月16日:キプロスで預金封鎖が実施
- 2013年3月19日:キプロス議会は預金課税に関する法案を否決
- 2013年3月25日:大統領と欧州連合が交渉、支援条件で合意し預金課税実施
- 2013年3月28日:銀行営業再開.ユーロ圏初の預金引出制限
実際に当時のATM画面は以下のようになっており、技術的な理由により引き出しが出来ませんという表示となっていました。

銀行から引き出しができないことで市内では暴動が起こり中には銀行にブルドーザーで突っ込んだ人もおり大騒動となっていました。

キプロスの預金封鎖の内容①:預金課税
まずは預金課税ですが、EUから預金課税を要求された当初のキプロスの議会の案は以下の通り幅広い課税を求めるものでした。
預金残高10万ユーロ以下:6.75%の預金税
預金残高10万ユーロ超:9.9%の預金税
となりましたが、これでは富裕層や富裕層でない人にも広く浅く負担を求める手法となる為、棄却されました。
最終的には富裕層から徴収する方法に変更となりました。
キプロスにはキプロス銀行とライキ銀行という大きな銀行が二つありますが、ライキ銀行が経営危機に陥っていたため銀行毎に課税率を変更しライキ銀行を取りつぶす措置を取りました。
実際に実施された預金課税は以下の通りとなります。10万ユーロつまり預金残高1300万円程度未満の方は保護された形になったわけですが、ライキ銀行で10万ユーロ以上の預金残高の方は10万ユーロ以上は全額没収という非常に厳しいものとなりました。
キプロス銀行預金に対して、
- 10万ユーロ以下は全額保護
- 10万ユーロを超える分の47.5%をキプロス銀行株式に転換し、残り62.5%を全額没収
ライキ銀行預金に対して、
- 10万ユーロ以下は全額保護しキプロス銀行へ移管
- 10万ユーロを超える預金は全額没収
キプロスの銀行に預金していた富裕層はロシア人が多かった為、ロシア人に痛みを与えて大半の自国民を保護したという形になりました。
キプロスの預金封鎖の内容②:出金制限
キプロスの悲劇は預金封鎖が解除された2013年3月28日以降も続きました。
預金封鎖後の混乱を防ぐため、キプロスの財務省は銀行からの預金の引き出しを1日300ユーロ(約3万9000円)に限定しました。
当然、預金封鎖が解除されれば国民は再び実施される可能性を鑑みて、こぞって預金を引き出し銀行の資金が枯渇してしまう恐れがあるばかりか、資金の国外流出を避ける狙いがありました。
以下は当時の日経新聞の記載になります。
【イスタンブール=花房良祐】キプロス財務省は27日、同国の銀行からの預金流出を防止する包括的な金融規制を発表した。16日から休業している同国の銀行が28日に営業を再開する際の混乱を回避するのが目的。現金の引き出しを1日当たり300ユーロとし、国外送金も厳しく制限する。財務省は声明で「一時的な措置で、金融システムの安定を確保する」などと強調した。
(引用:日経新聞金融規制開始)
上記には一時的な措置という記載がありますが、実際にこの規制が解除されるのは約2年後の2015年4月6日のこととなり、国民は長い間資金を縛られた生活を余儀なくされたのです。
【イスタンブール=佐野彰洋】キプロスのアナスタシアディス大統領は3日、2013年に導入した一連の資本規制を6日にすべて解除することを表明した。ギリシャの金融システムから受ける影響は軽微になったとの考えも示した。
(引用:日経新聞金融規制解除)
日本の預金封鎖との類似点
前回日本の預金封鎖の事例でみてきた通り、日本でも預金封鎖と同時に資産課税が行われました。
そして、課税対象となったのは現在の価値で5000万円程度の資産を保有する富裕層に限定されました。(しかし次回日本で預金封鎖がなされる場合は、マス層といわれる預金残高3000万円未満の口座にも課税を行う必要性があると考えられます。)
また、預金封鎖は何も前触れなく実施されるという点が重要な共通点です。もし国民に事前に預金封鎖が実施されることが察知されれば国民がこぞって預金を引き出し取り付け騒ぎとなりますよね。
危なくなってきたら対策を練ろうと考えていては、不意をつかれて一貫の終わりとなるかもしれないのが預金封鎖なのです。
日本の預金封鎖との相違点
まず根本的にキプロスはユーロ圏に属している為、自国の独自通貨を保有しませんが、日本は日本円という独自通貨を保有しております。
その為、日本円は日銀が発行しようと思えば発行できる(=通貨発行権の保有)のですが、キプロスは通貨発行権を保有しない為、借金を紙幣増刷によって補完することが出来ないのです。
そして、キプロスは非常に小さな経済規模の国ある為、キプロスの財政危機はユーロ全体の信用問題には発展せず通貨安は起こらず、過去の日本のような強烈なインフレは発生しませんでした。
また通貨を発行できれば、インフレを起こしても通貨を発行して銀行を救済することができましたが、キプロスは欧州の要求を呑む他の道はなかったのです。
過去の日本の預金封鎖が政府債務弁済とインフレの抑制が目的であったのに対し、キプロスの預金封鎖が国内銀行の救済という目的の違いが明確にありました。
- 過去の日本の事例
膨らむ政府債務⇒信用低下⇒通貨価値下落⇒更なる臨時費用支払い⇒日銀直接引き受けによる国債発行⇒通貨量膨張⇒インフレ⇒預金封鎖 - キプロスの事例
肥大化する銀行規模⇒銀行経営失敗⇒救済の為に欧州と交渉⇒預金課税と引き換えに欧州からの支援
預金封鎖の対策
先程も記載したとおり、預金封鎖は突如として実施される為、財政問題が深刻化し預金封鎖からの預金課税の足音が近づく日本においては出来うる限り早く海外の資産を保有することが対策として肝要となります。
海外資産といっても、国内の証券口座を通して保有する外貨建資産やFXや外貨建預金で保有する外貨は前回の預金封鎖の例同様課税の対象となってしまいます。