今回は、最近「スマートデイズ」が民事再生手続開始を申し立てたという話題がありましたので、こちらを例に不動産における「サブリース」とは何か、解説していきたいと思います。
サブリース、という言葉は文字の通り、物件の又貸しですね。
元々は不動産会社のクライアントの中に、海運業を営む企業が存在し、船舶をチャーターすることによる収益の仕組みを取り入れたことが発端となります。
船舶のチャーター(傭船契約ですね)に関しては私も総合商社で働いていおり知識があるので言っていることは理解できます。
船舶というのは基本的に船を建造する「造船所」、船を借りてくれる人を探す「傭船者(商社など)」、船を借りる人である「企業」の3者がいることは不動産と同じ構造です。
しかし、船舶の場合は、傭船者である仲介人に、船を貸している間、ずっと仲介料を払い続けるのです。
不動産の場合は最初の仲介料1ヶ月分だけ、若しくは2ヶ月分だったりしますよね。
それが船舶の場合は毎月です。そこで、同じような収益構造を不動産でもできないだろうか?と考えたものがサブリースビジネスです。
サブリースを簡単に言うと、あなたが物件を買って、Aさんに貸して、さらにAさんがBさんに貸すといったとても簡単なビジネススキームなのです。
例えばあなたが建造した不動産を10万円で貸し出すと考えた時に、不動産会社に集客をしてもらって、入居者が出たらあなたも不動産会社に仲介手数料10万円を払うのが通例ですよね。

例えば、以下のような条件であればあなたは毎月の収入が4万円ですよね。(本来はここに管理費が入ります)
- 6万円/月のローン返済(金利含む)
- 相場10万円/月で貸し出す
- 入居者が入った初月に10万円の紹介料を不動産会社へ払う(紹介料はここで終わり)
同じ物件をサブリース適用する場合は、以下のような形になります。
- その後、不動産会社があなたの物件を7万円などで借り、
- メンテナンス・リフォームなどで不動産価値を高め、
- 家賃を12万円払ってもらう
つまりは、入居者から 12万円/月、あなたへの借り上げ賃料7万円を払い、5万円儲ける、ということになるのです。
あなたは4万円の収入を得るはずですが、「安定」を取っているため、収益は減少しています。その減少した収益が、継続的に仲介者である不動産会社に入る「仲介料」ということです。
本文では、もう少し正確にサブリースの知識を学んでいきましょう。
- サブリースの基本は物件(ビル、アパートなど)を建築し、賃貸経営を不動産管理会社に依頼すること。
- サブリーサーの選定は基本的にオーナーも事業運営に対する知識が必要となる。
- サブリーサーの実績や経営基盤を綿密に調べて実行することが肝要。
- 総合面で考えるとサブリースを実行するのは抱えるリスクなどを考慮すると合理的とは言い難い。
Contents
不動産サブリースとは
まず不動産を運営(資金運用)をするには、「不動産投資の事業性・財務レバレッジ・表面利回り・基礎用語の知識」でも述べている、購入後に収益を出すための「事業運営」が大きなハードルとなります。
「事業運営」、つまりは所有する物件に住んでもらう人を探す、もしくは探してもらうために代行してくれる不動産管理会社を探す、などですね。大きな物件になるとハードルはどんどん高くなります。部屋の数も増えればそれだけ管理コストも掛かりますしね。
そこで、サブリースの登場です。
サブリースとは上記で述べた通り「又貸し」ですが、例えばあなたがマンションを一棟調達(購入)し、いざ事業運営をする際に、サブリーサー(不動産会社)が一括で借り上げをし、代わりに事業運営するというものです。
ですので基本的にあなたの仕事は不動産を買ってサブリーサーに貸して終了というわけです。サブリーサーからは少し相場より低くですが、家賃収入(家賃保証)が支払われることになります。
この事業リスクを避けて、安定的に資産を積み上げていきたいという人が活用するスキームですね。
厳密な定義をお話ししますと、サブリーサーがあなたから物件を一括で借りることを「マスターリース」、サブリーサーがあなたの物件を第三者に貸す行為の方を「サブリース」といいます。
もしあなたがサブリースを活用したい、というのであれば物件を購入する前にサブリーサーと商談をするのが基本です。収益が出そうにない物件を買った後でサブリーサーにお願いしても断られることがありますからね。リフォームとか家賃保証の減額交渉になったりします。
サブリースを活用するメリットを一応並べておきます。
- サブリーサー(不動産会社)が物件を一括管理してくれ、購入当初に深い不動産知識なしでも賃貸物件の建造が可能。
- 賃借人に対しての対応も全て不動産会社が実施。
- 空室保証なので安定した家賃収入を得られる。
- 賃借人の義務である物件の原状回復も不動産会社かその委託先である管理会社側が責任を持つ。
次章ではサブリーサーを探すために考えておかなければならない項目を説明していきます。
サブリーサー(不動産会社)選定について

サブリースをお願いしたい、とあなたが考えたとしてもどこのサブリース会社が信頼を置けるのか、良くわからないですよね。
私自身も一時期サブリースは検討し、10社以上と内容については詰めてきました。
基本的には大手が安心であることは間違い無いのですが、選定するに当たって会社ごとに強みが異なりますし、担当者とあなたとの相性もこれから運営していく上で大切になってくるのは間違いありません。
今から書き出していく選定基準についてはその前の段階になりますので、基本的な条件を把握した上でサブリース会社は選ぶべきかと思います。
事業計画立案のクオリティ
サブリーサーの立てる事業計画を、鉛筆ナメナメのふざけた計画では無いか、あなた自身が判断できる必要があります。
収支予測、事業計画を提出され、パッとみた瞬間にクオリティが低いと思ったらそのサブリーサーを信用するのはもうやめていいです。
緻密な計画を立てられる会社がサブリースを始める大前提です。このような資料に担当者の熱意が見えてきますので、高額な不動産をお任せすることはできないですよね。
私に提出された資料は酷いものもかなり有りました。数字がずれて間違っていたり、明らかに実現可能性の低い計画を出されたりと。
トヨタ自動車発祥の有名な言葉が有りますが、提示された事業計画はなぜを3回繰り返すつもりで臨みましょう。
確固たるマーケット調査能力の有無
サブリーサーの強みが最も出るところでは無いかと考えられるのが調査能力です。
以下で集客実績なども書いていますが、「調査」というのは実績に基づく経験、知識があってこそ研ぎ澄まれる感覚あってのものであり、その感覚を数字に置き換えたものになります。
そこには必ず深いロジックがあって然るべきものです。
調査する基本情報としては、同地域の不動産物件の空室状況や賃料相場ですね。その状況に基づきあなたの不動産はどのように運営されていくべきか、しっかりヒヤリングしましょう。
質問はしつこいぐらいにしましょう、サブリーサーの担当者が何かを閃いて、新たな施策を思いつく可能性もあるのでWin-Winな関係になることができます。
集客実績、マーケティング能力、拡散力
不動産でインカムゲインを得るにあたり、最重要と言っても良いのが「集客」です。
どんなに良い物件でも集客無くしては不動産運営は成り立ちません。
100人に告知する能力があり、1人の入居者を狙うよりも、1,000人に告知する能力があり、10人を継続的に狙える能力を備えた企業を選ぶ必要があります。
ここで会社のブランドネームがキーになるわけですね。例えば三井不動産系列の会社であればその名前だけでも人が集まるのです。そのぶんあなたに支払われる家賃保証は下がる可能性はありますが、あくまで「安定」を最重要とするのであれば、大手に任せておくのが安心ですよね。
サブリーサーがどのように物件を告知しているのか、Webページなどで確認しておきましょう。
不動産運営の実績、リスク管理の有無
不動産運営は正しい管理業務、入居者、テナントが不満を持たないような環境構築が必要になります。
サブリーサーに過去に何件の管理業務を担ってきたのか、現在何件管理業務を実施しているのか、平均入居年数などを絶対に質問するようにしましょう。
ここで回答された内容とあなたに出された事業計画とを見比べて、計画の不確実性を少しでも軽減させることが肝要です。
メンテナンスへの深い知識、重要性の認識
物件のメンテナンスへの意識が欠落しているサブリーサーは少なくありません。人の物件ですから少しメンテナンスの基準は甘くなってしまいがちです。
反対に、メンテナンスの意識が高いサブリーサーほど信頼感があります。物件の価値をできるだけ維持・増加してもらえるよう、そこは担当者としっかり確認しましょう。
サブリーサーのメンテナンス手法、実績、例えば過去にトラブルはあったのか、メンテナンスをして価値を維持している物件を見せてもらうなどして根拠を確かめましょう。
会社経営が盤石なものであるか
サブリーサーの会社経営状況を把握することも、前提の前提となりますね。
あなたがもしサブリースを提供するサブリーサーにお願いしたとして、その会社が債務危機になった瞬間にあなたへの家賃収入保証が滞るのは目に見えていますし、そもそもそのような会社に不動産運営を任せるのはリスクが高すぎます。
ここでまたもあなたに企業体力を見極める知識が必要となってしまいますが、不動産経営をするのであればそれは「事業家」ですから、知識がない状態で手を出すのは失敗のもとです。(スモールビジネスであれば、果敢に挑戦してそこで経験を積むという考え方は良いと思います)
上場している会社であればWebサイトにIR情報がありますが(すでに信頼がおけますが)、非上場の中小企業などについてはなかなか情報が出てきません。
ですので、非上場であっても有価証券報告書、決算公告、会社四季報未上場会社版、企業ホームページなどを探りましょう。
それでも見つからなければ、有料となってしまいますが、帝国データバンクで情報を入手することをオススメします。
そもそも不動産という高額なものを扱う会社がWebなどでデータを公開していない時点で疑いを持った方が良いでしょう。
基本的に、広告や企業の周知に力を入れている会社というのは自社のWebサイトに必ずと言っていいほど不動産に関する情報を発信しています。
そのような情報に書いている内容がしっかりしているか、正確であるかを判別していきましょう。
サブリーサーの選定は謂わば共にビジネスを創っていく協同経営者ですので、細心の注意を払うようにしてください。
なぜ私がここまで厳しくいうと、冒頭に述べた「スマートデイズ」の大失敗例があるからです。
こちらのようなサブリーサーの問題については後述しますね。
サブリースは一見、手軽、安定の側面が強いがリスクが高すぎる

上記までで、サブリースをするにあたり事前に考えておかなければならないことを列記してきましたが、そこまでお手軽で安定という感覚はなくなってきませんか?
そもそもあなたが考える安定も、あなたが見極めなければならないのです。
サブリーサーに関しては借り上げて運営しているだけなので、大きな損失というものが発生するリスクはかなり限定的です。つまり、常にリスクを背負っているのはあなたであると再認識する必要があるでしょう。
基本的にサブリース契約をする際は物件(アパートやビルなど)の「建築」から始まるので、長期の契約(パートナーシップですね)になりますが、私がサブリースを一時期検討し、断念した理由は「サブリーサーを信用できない」「人に運営をしてもらうことによるコストも高い」という2つに直面しました。
確かにマーケット調査と集客を実施し、不動産所有者に定額でお支払いというビジネスモデルはうまく所有者と集客に強みを持った企業との隙間を埋めたものであることは納得します。
しかし、あまりにも「30年の家賃保証」、「空室リスクなし」という言葉が連呼されることと、30年と言っておきながら契約書にはしっかり「2年ごとに家賃料の見直し」と書いてあることに萎えてしまったのです。
そもそも30年もこの人口減の日本のマーケットで家賃保証をする時点で違和感は拭えず、空室リスクなしの根拠も提示してくれる会社はほぼありませんでした。(根拠を出せるはずもないんですが)

加えてサブリースを実際に実行しているオーナーさんに話を聞いても、リフォームと修繕にかかる金額が想像以上に高く(第三者会社に委託+謎のコミッション)、不動産やるなら自分で運営した方がはるかに早いし効率的だと考えたからです。
少し時間が経って、今月になり「女性専用シェアハウス」、かぼちゃの馬車を運営している「スマートデイズ」が完全に賃料支払停止してサブリース解除→一部のオーナーが同社に損害賠償を請求→スマートデイズは民事再生手続き開始を申し立てる、という地獄のような事象が発生し、私の考えは確信に変わりました。
今回は少し長くなってしなったので、別の記事で、サブリースの問題点を「スマートデイズ」の破綻を最新トピックとし、紹介していきたいと思います。