005経済の知識

日本銀行の金融政策をわかりやすく解説~非伝統的金融政策・イールドカーブコントロールとは?~

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私は総合商社で為替トレーダーとして3年ほど勤務し為替トレーディングを行った経験があります。

為替の見通しを語る上で各国の金融政策を理解することは不可欠になります。

何故なら金融政策が緩和的になるのであれば当該通貨安となり、金融政策が引き締めになるのであれば当該通貨高になるからです。

世界各国の金融政策を理解することは、為替のみならず経済を理解するのに必要なこととなりますが、今回はまず日本の金融政策について、元総合商社の為替トレーダーの視点から分かり易く解説していこうと思います。

その上で今後日銀と政府が起こしうるヘリコプターマネー更には預金封鎖・財産課税の恐怖についても触れていきたいと思います。

今回のポイント
◉ 世界主要国の金融政策の目的はインフレとしている
◉ 通常は金利を操作することにより経済とインフレをコントロールしている
◉ 先進国ではリーマンショック以降インフレがあがってこない
◉ 先進国では既にゼロ金利近辺の金利となっているので非伝統的金融政策をとっている。
◉ 日銀は世界で最大の金融緩和を行っている。
◉ 当面は日銀の金融緩和は続く見通し
◉ 結果としてヘリコプターマネーから強いインフレが起こる可能性が高い

 

1.日本銀行の金融政策の目的について

まず大前提として日本銀行(以下:日銀)の金融政策の目的とするところについて見ていきましょう。

(1)日銀の目的ってなに?

日銀の政策は他の主要な世界の中央銀行と同じく、インフレターゲットというものでインフレ率を2%近辺で安定させることを目標としています。

因みに米国の中央銀行であるFRBも同じくインフレ率2%を目標とし、更に完全雇用を目指すというDual Mandate (二つの目標)を掲げています。

日本はご存知のように完全に人手不足国家なので、完全雇用は既に達成されており、インフレ率のみを主要な目標としています。

(2)何故インフレ率が重要なのか?

では何故インフレ率を重要視するのでしょうか。その理由をみていきましょう。

国の経済が順調に成長していれば、当然企業の収益が拡大し、雇用並びに賃金が拡大していきます。

すると国民全体の所得が増えるので、国全体の需要が膨らみます。

供給が一定であるとすると、需要が高くなった分価格が高くなります。

すると更に企業の売上高は上昇し収益があがり、また雇用と賃金が拡大します。

経済成長におよるインフレの発生を図解

という良性のインフレスパイラルが発生していきます。このように経済が堅調であれば自然にインフレが発生していくのです。

インフレ率が低い場合は、経済が軟調だとして中央銀行は金利を引き下げて、景気を引き上げようという政策をとります。

日米欧などの先進諸国は、この良性の心地よいレベルのインフレを2%と考えていますが、成長著しい新興国では5%程度に設定している国もあります。

金利が下がると例えば個人でいうとローンを組みやすくなりますし、企業の活動としても為替安によって輸出企業に恩恵があるばかりでなく、同じく借金しやすくなるので投資が促進され経済が浮揚していくことになるもです。

ここでそもそもインフレ率よりも経済成長を目標にした方がシンプルじゃない?

と疑問に思われた方がいらっしゃると思います。

確かに経済成長の方がシンプルなのですが、経済成長は高ければ高い程良いということになりません。

実力以上の成長を行うと景気が過熱しすぎ日本のバブル崩壊のような深刻なショックを齎す可能性があり、適度な成長を着実に積み重ねることが大事になってきます。

その為、経済を適温状態に保つのが中央銀行の責務なわけで、その温度計として良い働きをするのがインフレ率だということになります。

過度な成長が行われるとインフレ率が高騰しますので、中央銀行は先程とは逆に金利を引き上げて景気を冷ます必要があるのです。

また過度な成長以外にも、新興国で起こりがちなのは政変や原油価格下落などの影響でインフレが高騰することがあります。

危機的ば状況で為替が売り込まれ輸入物価が上昇し、猛烈なインフレが発生する場合などもあるのです。

その場合も金利を引き上げて中央銀行はインフレ率を引き下げる動きをみせます。

以下が2014年からの原油価格下落時のロシア中銀の動きです。(青:インフレ率黄色:政策金利、赤:USDRUBレート)

ロシアの政策金利とルーブル
(Bloombergより管理人作成)

オイル価格下落で為替がUSDに対して半分に減価され、それによって輸入価格が急騰し国内物価は急上昇、慌てたロシア中銀が金利を8%から18%近辺まで引き上げて対応し、鎮静化を図っております。

金利を引き上げると当然経済は冷めてしまうのですが、インフレを放置すると生活費の高騰により国民の生活は困窮し、通貨価値は下落し続け企業は米ドル建負債を返済できなくなりデフォルトという最悪の道が見えてくるので金利を引き上げて通貨価値を保とうとするわけです。

2.非伝統的金融政策とは?

先程、インフレ率が低いのであれば金利を引き下げて景気を過熱すると申し上げましたが、先進諸国ではリーマンショック後日米欧共に0金利といわれる下げられる限界まで金利を下げてしまいました。

更なる刺激を行う為には、非伝統的金融政策と呼ばれる金融政策をうつことを余儀なくされました。

(1)マイナス金利

一つ目の非伝統的金融政策はマイナス金利です。これは真っ先に欧州中央銀行(ECB)が適用し、日銀も適用しました。(日銀のマイナス金利については後程、詳述します)

非常にシンプルですね。0%より下があるではないかという考え方です。

因みにECBのマイナス金利は▲0.4%にものぼり預金者にもマイナス金利が適用され始めています。国民や企業としては預金をすれば金利を逆に搾取されるので、使ってしまった方がよいという行動になり、消費が促進されるという効果が期待できます。

(2)質的・量的緩和

二つ目の非伝統的金融政策は大規模な資産、主に国債の買い入れによるイールドカーブ全体の下落です。

イールドカーブというのは横軸に国債の年限、縦軸に各年限毎の金利をプロットしたもので以下のようなものになっています。

では何故このようなことをするのでしょうか?

先程紹介した政策金利の引き下げは超短期金利のみしか効果を及ぼさないので、長期の金利まで引き下げるという効果があります。

長期の金利を引き下げれば、企業としても長期プロジェクトを推進しやすくなりますからね。短期金利のみでなく、長期金利までを操るより強力な金融緩和であるということができるでしょう。

上記は主要中央銀行の資産購入ですがリーマンショック後、積極的に資産を買い入れしていることが分かります。そして遂に日銀が世界最高残高を誇るという状況になっています。

3.現在の日銀の金融政策

現在の日銀の政策ですが、ご存知の通り日本はバブル以降デフレスパイラルに陥っています。直近はなんとかプラスに回帰し定着しつつあるという段階ですが、目標の2%はまだ遙か遠くというところです。

日本国の金融政策は現状世界最大の金融緩和を行っています。

金融緩和の名称は「長短金利付操作付質的量的金融緩和」英語にすると「YCCQQE = Yield Curve Control Quality Quantity Ease」で当然のように非伝統的金融緩和を行っています。

格闘ゲームの必殺技みたいな名前ですが、詳しく見ていきたいと思います。

(1)イールドカーブコントロール

10年もの国債の金利を0%近傍に調整する政策で日本が初めて実施している政策になります。イメージとしては以下になります。

イールドカーブとは各年限毎の国債の利回りを結んだ線のことで、通常は以下図のように年限が大きい国債の方が金利が高くなります。

当然ですよね、将来の不透明性や財政破綻リスクを織り込むと年限が長ければ長い程、金利が高くないと国債の購入意欲が出てきませんから。

今までの日銀は金利を引き下げる為に、80兆円という目安をつけて大規模な国債購入を行いイールドカーブ全体を引き下げてきましたが、この10年を0%近辺に調整するという政策のおかげで60兆円程度の買い入れ額に抑えることが出来ています。

私が為替トレーダーをしている時も、10年物国債の金利が0.1%を超えると日銀が指値オペという国債購入オペレーションを行い金利を再び0.1%以下にねじ伏せる動きをしてきました。

(2)マイナス金利

良くマイナス金利政策について間違った理解をされている方もいらっしゃいますが、マイナス金利が適用されているのは、銀行が日本銀行に預けている当座預金のうちの一部に▲0.1%の金利が適用されているのであって、我々の預金には関係ありません。

我々が銀行に預金をしているように、銀行の銀行である日銀に各銀行は口座を保有してお金を預けているのです。

日銀が市中銀行から国債を購入したとします。すると購入された銀行は日銀の口座に日銀から得た資金を寝かせます。

すると今までは寝かしておくだけで0.1%の金利を日銀から付与されたので、市中銀行はこの資金を市中に流す必要がなく、所謂「死に金」として日銀の口座の中に眠ってしまっていたのです。

これでは、折角市中に金を流入させる為に日銀が国債を購入しても意味がありません。その為、一定以上の預入額についてはマイナス金利を適用して、市中銀行が市場に資金を流入させるような行動を起こさせることを企図して、この政策を発表しました。

正確には上の図のように三階建てとなっており、一定額までは今まで同様0.1%で、その他日銀が任意の割合を決定し0%の部分があり、更にその上に▲0.1%を適用というようにしています。

(3)オーバーシュート型コミットメント

次にオーバーシュート型コミットメントなんですけど、これは日銀の覚悟です。

つまりインフレ率2%を達成するまでは緩和を継続し続けますというコミットメントです。

こんなコミットメットしちゃっていいのかという疑問はありますが、中期的な方向性が明確になっています。

4.日銀の金融政策総括と日本の現在の問題点

日銀はあらゆる手を使って大規模な緩和を実施しておりますが、現状インフレ率は2%から程遠い1%未満の水準で推移している為、まだまだ金融緩和を継続していかなければならない状況になっています。

私は現在のこの好況下でデフレの原因を作っているのは間違いなく企業の賃上げに対する姿勢だと思います。

企業収益を拡大しても、賃金が上昇しないので需要が増加してインフレが発生しないのです。その為、政府が主導で賃上げを要求しているわけです。

実際増税により国民の可処分所得は2002年名目700万円の人の手取りは590万円ですが、2017年では540万円となっており、人口が頭打ちなうえ国民がどんどん貧しくなっているので需要が増大するわけないですよね。

企業が賃上げを行わない限りはこの金融緩和姿勢は続いていくことが想定されます。

5.迫りくるヘリコプターマネーからのハイパーインフレの恐怖

日銀の金融政策が永遠に続けられるかというと限界があります。

現在の金融政策は日銀が金融機関から国債を購入することによって継続しています。

では日銀が購入する金融機関の国債が枯渇してしまえば、日銀は現在の形式での金融緩和を継続することができなくなります。

そして、預金金融機関の国債が枯渇するのは時間の問題となっています。このままのペースでいけば三年以内の枯渇します。

日本国債の保有比率

枯渇しても金融緩和の継続が必要となった場合にヘリコプターマネーを実施する可能性に現実味が増してきます。

ヘリコプターマネーは政府が引き受けた国債を日銀が直接引き受ける政策です。

【ヘリコプターマネー図解】
ヘリコプターマネー

ヘリコプターマネーと現在の金融緩和の違い、ヘリコプターマネーの何が問題なのか、その後に待ち受ける預金封鎖・財産課税という悲惨な末路について纏めていますので、合わせてご覧ください。