前回「バングラデシュ不動産投資をする上での為替リスクについて考察(前編)」で為替レートが何が原因で動くかについて分析しました。
今回は前回の内容を踏まえて、今後中長期的にバングラデシュタカと円レートがどのようになっていくのかを考えていきたいと思います。
- 短期筋の為替のポジションはフラット。
- 実質金利という観点でみると日本とバングラデシュはほぼ均衡した水準。
- 為替チャートからは現在の水準から▲28%~+28%が想定される。
- 日本の財政破綻リスクを考えると海外資産を持つこと自体リスク分散となる。
投機筋のポジション
まず投機筋のポジションですが、バングラデシュタカ(以下BDT)のポジションについては殆ど投機筋のポジションはありません。
正確にいうと公表されていないので、
分からないのですが投機筋が取引を行うのは主にG10通貨と言われる主要国の通貨です。
また取り扱いをする新興国の通貨もメジャーな南アフリカランドやトルコリラ、
ブラジルレアルやメキシコペソといった通貨が多いです。
私の為替トレーダーとしての経験上BDTを取引きしている投機筋のDealerは存在せず、
当然ポジションも殆どないと想定されます。
つまり
【BDT-JPY】
のレートを勘案する上で、
加味するべきはJPYの投機筋のポジションのみを勘案すればよいのです。
以下のIMMポジション推移を見て頂けば分かるのですが、
現在JPYの投機ポジションはFLATに近いので、
ポジションからはどちらに転ぶか分からない状態ということが出来ますね。

金融政策の違い
前回金融政策によって金利が上下し、その結果為替レートが変動することを述べました。
A国とB国があり、
A国の金融政策が不変のまま、
B国の金融政策が引き締めに向かい金利が上昇した場合、
B国の通貨が買われていきB国通貨高になります。
「金利が高い」ということは保有するだけで利子を貰えるため、通貨の魅力が増すためです。
(1)日本国の金融政策
日本の金融政策については「日本銀行の金融政策をわかりやすく解説~非伝統的金融政策・イールドカーブコントロールとは?~」で説明した通り、
世界最大の金融緩和を行っています。
そして、日銀のインフレ率2%の目標は一向に達成される見込みはなく、
また黒田総裁が再選されたことからこの日銀の金融緩和姿勢は今後も継続していくことが見込まれています。
(2)バングラデシュの金融政策
では一方のバングラデシュの金融政策はどうなっているでしょうか。
バングラデシュもインフレ率の安定を金融政策の中心に掲げている為、
まずはインフレ率の推移について把握しなければいけません。
以下がバングラデシュ中央銀行が発表している「今までのインフレ率の推移」と「今後のインフレ率の予測」です。
参照:バングラデシュ中央銀行
インフレ率が5%~6%のレベルで安定すると見込んでいます。
この5.0%~6.0%というインフレ率ですが、
新興国の中では比較的安定しているといえる水準です。
現在の日本では考えられませんが、成長著しい新興国では人口の増大と賃金の上昇で需要が強くなっていく為、自然とインフレが発生していくものなのです。
これを受けて政策金利自体は2年半以上5%が続いているのですが、
銀行の貸出しレート(赤)と預金金利(緑)の推移は、
以下のように下打ち感がありますが低下傾向にあります。

インフレが高進した場合は景気の過熱懸念から金利を引き上げて景気を冷ます必要がありますが、
インフレが鎮静化している状況では金利水準を低くして経済をブーストさせようという思惑が働いているということですね。
(3)金融政策の違いまとめ
金融政策では日本が大規模金融緩和を継続しており、
バングラデシュは金利は低下傾向はあるものの下うち傾向ではある為、日本の方がより緩和的な政策を取っているということがいえます。
この項で見てきたのは名目金利つまり日本の政策金利は▲0.1%、バングラデシュの政策金利5.0%で、
この数値だけをみるとバングラデシュの通貨タカの方が価値が増加していきそうですが、ことはそこまで単純ではありません。
金利という観点から本当の意味で通貨の価値が高くなるか、
低くなるかを測る為には次項で説明する実質金利という考え方が必要になります。
実質金利
前回の記事「バングラデシュ不動産投資をする上での為替リスクについて考察(前編)」でインフレ率が高い通貨程、長期的には通貨価値が減価するという購買力平価説について説明しました。
簡単に復習すると、
インフレ率5%の国では現在100円で変えているハンバーガーが1年後105円になっているので、
モノの価値が変わらないとするとお金の価値が減価していくということになります。
一方、インフレ率が高い国ではそれ相応に金利が高く設定され、この点では通貨が増加していくことになります。
その為、この金利からインフレ率を差し引いた実質金利が、通貨の強弱を考える上で重要になってきます。
実質金利というのは、例えば分かり易く預金金利が7%の国でインフレ率が5%だと仮定します。
すると、国民は預金にお金を預け入れるだけで7%資産が増えますが、
一方で生活コストが5%高くなるので実質的には2%豊かになることになります。
つまり金利0%インフレ0%の日本のような国と比べると、上記の国の通貨は2%ずつ強くなることを意味しているのです。
日本は金利もインフレ率も0%ですが、
バングラデシュはインフレ率が5%程度、
政策金利が5%なので差引き実質金利は0%となるので、
結果的に実質金利という観点からも甲乙つけがたいという結果になりました。
為替チャート
それではテクニカル的な面を見るためにチャートを見てみましょう。
以下はBDTJPYの10年間のチャートです。(上方向がBDT高で下方向が円高です)

上記をご覧いただければ分かるのですが、
リーマンショックのような世界的な危機が起こらないとすると現在の水準は底値と見て取れる水準に来ています。
またどこまで落ちたとしてもリーマンショックの傷跡が癒えぬ2011年のトドメの一撃といえる東日本大震災の時に記録した0.9という水準が下限となってきます。
現在の水準から考えると、28%の下落を最大損失として見込んでおけばよいでしょう。
一方アップサイドとしては1.60台を何度も示現しているので現在の水準から28%の増加を見込むことが出来ます。
つまりチャートから見る為替のリスクはざっくり▲28%~+28%と考えておけば良いでしょう。つまり現在の水準はフェアウェイど真ん中ということになります。
むすび
ここまで見てきて、投機筋のポジション上も、金融政策とインフレ率から導き出される実質金利上も、チャート上もどちらに転ぶか分からないという状況であることが分かりました。
仮に最大の下落を東日本大震災時の水準として現在から28%の下落としても、
5倍が見込めるバングラデシュ不動産においては5倍が3.5倍になる程度と考えると深刻なダメージを追うわけではなく若干儲けが少なくなる程度に留まります。
一方28%上昇した場合、5倍が上振れ手6.4倍になる可能性もあります。
このような拮抗した条件下、
BDTJPYレートがどちらに転ぶかは正に神のみぞしるところではありますが、
以前「日本の財政破綻からのインフレ発生可能性を検証し必要な対策について考える」でも指摘した通り日本の財政破綻による猛烈な円安リスクをマネージするという意味でも、
日本円以外の資産を保有しておくことには大きな意味があると考えています。