これまでも様々な新興国株式銘柄を紹介してきましたが、今回はカンボジアの株式投資を取り上げたいと思います。
カンボジアと言えば、アンコールワットで有名ですよね。私も4年前ほどに海外出張で首都・プノンペンに行ったことがありますがまだまだ経済発展もはこれからだなという印象が強かったです。
当時は主な交通手段は「トゥクトゥク」で、道も整備されておらずガタガタでしたが、人々は活気に満ちていて、新興国のポテンシャルを大いに感じました。
今回はそんなカンボジアが本当に経済発展していくのか、投資家としての観点から投資すべき国なのかどうかを書いていきたいと思います。
- カンボジアは一人あたりGDPが1,230USDとミャンマーの1,300USDよりも低く、2016年のGDP成長率は7.02%と今後発展のポテンシャルを秘めるアジア最貧国の一つだけあり、成長余地が高いことが伺える。
- 経済成長率の推移は2000年代後半は10%以上のGDP成長率を誇りましたが、リーマンショックを機に落ち込み、今は7%ほどの成長で推移している。
- カンボジアの人口ピラミッドは理想に近い形とも言えるのですが、ボリュームゾーンが0-4歳、5-9歳、20-24歳、30-34歳に集まっている。
- カンボジアの労働賃金は、格差が大きいASEANの中でも最底レベルであり、今後この低賃金に目を付けた外資企業が進出してくる。
- 新興国の特徴として、まだ農業のGDPに占める割合が25%と高く、農業人口の都市部への移動も見込まれ、豊富な人的資源を有している。
- 主要輸出先の米国への依存が大きく、同国の景気が悪化すると国内の縫製従事者50万人の生活に影響が及ぼすのではとイメージしてしまいそうですが、高級品ではなく、景気が悪化しても「衣・食・住」の衣を担っているので大きな影響はないのではと考えられる。
- カンボジアの株式市場は2012年4月にオープンしたが、現時点での上場数は5社。PER、PBRを調べるにもデータがなくて分析ができない状況。
- カンボジア、ミャンマー、ラオスのような小さい株式市場規模への投資は株価が適正評価されず、財務諸表も信頼できないためおすすめできず、他の投資先を探すことが賢明である。
Contents
カンボジアの概要
まずはざっくりとカンボジアという国の概要を見ていきましょう。
カンボジア一般概要
国・地域名 | カンボジア王国 Kingdom of Cambodia |
---|---|
面積 | 18万1,035平方キロメートル(日本の約2分の1弱) |
人口 | 1,506万人(2015年、出所:カンボジア計画省統計局) |
首都 | プノンペン(人口:183.5万人(2015年、出所:同上)) |
言語 | クメール語(97.05%) ほかに少数民族言語(2.26%)、ベトナム語(0.42%)等 (2013年、出所:同上) |
宗教 | 仏教(97.9%) ほかにイスラム教(1.1%)、キリスト教(0.5%)等 (2013年、出所:同上) |
公用語 | クメール語 |
引用:JETRO
カンボジア経済概要
項目 | 2016年 |
---|---|
実質GDP成長率 | 7.02(%) |
(備考:実質GDP成長率) | 推定値 |
名目GDP総額 | 19.4(10億ドル) |
(備考:名目GDP総額) | 推定値 |
一人当たりの名目GDP | 1,230(ドル) |
(備考:一人当たりの名目GDP) | 推定値 |
鉱工業生産指数伸び率 | ― |
消費者物価上昇率 | 3.02(%) |
失業率 | ― |
輸出額 | 10,100.4(100万ドル) |
(備考:輸出額) | 通関ベース |
対日輸出額 | 827.2(100万ドル) |
(備考:対日輸出額) | 通関ベース |
輸入額 | 12,900.2(100万ドル) |
(備考:輸入額) | 通関ベース |
対日輸入額 | 528.3(100万ドル) |
(備考:対日輸入額) | 通関ベース |
経常収支(国際収支ベース) | n.a. |
貿易収支(国際収支ベース、財) | n.a. |
金融収支(国際収支ベース) | n.a. |
直接投資受入額 | n.a. |
外貨準備高 | 8,393.4(100万ドル) |
(備考:外貨準備高) | 金を除く |
対外債務残高 | n.a. |
政策金利 | 11.36(%) |
(備考:政策金利) | Lending Rate |
対米ドル為替レート | 4,059(リエル) |
(備考:対米ドル為替レート) | 期中平均値 |
引用:JETRO
カンボジアは一人あたりGDPが1,230USD(2016年)とミャンマーの1,300USDよりも低いです。2016年のGDP成長率は7.02%と今後発展のポテンシャルを秘めるアジア最貧国の一つだけあり、成長余地が高いことが伺えます。
1人あたりのGDPの低さがどうしても目を引きます。GDPの水準に関しては、意外にもカンボジアの歴史が影響しているのです。「ポル・ポト政権」という単語を聞いたことがありますでしょうか?
ポル・ポト政権下の虐殺と反ベトナム政策
同政権下では、100万とも200万とも言われる自国民の虐殺が行われ、類を見ない「恐怖政治」が国内外を震撼とさせました。帰国したシハヌーク殿下も幽閉されます。ポル・ポト政権幹部は、思想的に文化大革命当時の中国に大きな影響を受けたと言われておりました。また、ポル・ポト政権は、ベトナム戦争終結後、ソ連に接近したベトナムに対しても、伝統的な反越感情と相まってあからさまな敵対政策をとります。
引用:外務省
カンボジアは1975年-1979年のポルポト政権時に当時の同国の人口700万人に対して200万人が虐殺されました。その中でも医者や教師、知識人が優先的に殺されてしまいました。
原始共産主義者だったということですが、この時代は凄惨を極め「眼鏡を掛けて本を読んでいる」だけで兵隊に捉えられ、酷い拷問を受け殺殺害されるということが日常的に行われていました。
この時代に、経済の発展を担う知識人が優先的に殺されてしまったことが、カンボジアを停滞させた主な要因とされています。
詳細を知りたい人は首都プノンペンの「トゥール・スレン」を訪れてみると良いでしょう。虐殺犯罪博物館として、当時の様子がわかります。私は言葉を失いました。
カンボジアの経済成長水準は?
さて、話を戻しまして、カンボジアの過去の経済成長率の推移を見ていきましょう。
引用:World Economic Outlook Database, October 2017を元に筆者が作成
2000年代後半は10%以上のGDP成長率を誇りましたが、リーマンショックを機に落ち込み、今は7%ほどの成長で推移していますね。カンボジアの今後の成長要因について見ていきましょう。
カンボジアの人口ピラミッド
まず、今後の経済発展を分析するにあたり重要な指標であるカンボジアの人口を見ていきましょう。
カンボジアの人口ピラミッドは理想に近い形とも言えるのですが、ボリュームゾーンが0-4歳、5-9歳、20-24歳、30-34歳に集まっていますね。高齢者が異常に少なく、若年層が非常に多い構造です。これはポル・ポト政権時代に高齢者が大量に虐殺されたのも影響しています。
カンボジアの教育レベルはやはり低いのですが、知識型労働を求められる段階ではまだなく、労働集約型で低賃金を売りにして経済を伸ばしていく段階ですので悲観的になる必要はないです。
例えば、以下のASEAN諸国の最低賃金を確認してみましょう。
カンボジアの労働賃金は、格差が大きいASEANの中でも最底レベルであり、今後この低賃金に目を付けた外資企業が進出してくるでしょう。
最低賃金:
- 月額US$153 (2017年1月~)
付加給付:
- 皆勤手当:US$7(2011年3月から義務)
- 残業時食費手当:2,000リエルもしくは食事支給(1日1回)(2011年3月から義務)
- 年功手当:2年勤続US$2, 以降年US$1, 11年勤続US$11まで(2011年3月より義務)
- 災害保険(国家社会保険基金;NSSF):0.8%(縫製業は0.5%)
- 通勤手当:US$7(相場)※バベット地区はUS$13
- 住宅手当:US$5(相場) ボーナス:年間1か月分(相場)
- 労働条件
- 1日:8時間, 1週間:48時間
- 残業代:残業50%、夜間(22時~5時)100%, 休日100%, 出来高払いを採用する場合は届出必要
※個人所得税率 ~US$200:0%、~US$312.5:5%, ~US$2,215:10%, ~US$3,125:15%, US$3,125ドル~:20%
それではカンボジアの産業別GDPを見ていきましょう。
引用:CENTRAL INTELLIGENCE AGENCYのデータを元に筆者が作成
新興国の特徴として、まだ農業のGDPに占める割合が25%と高く、農業人口の都市部への移動も見込まれ、豊富な人的資源を有しているといます。これからどんどん工業に産業の比率が移っていき、最終的にはサービスに移動していきます。
カンボジアの経済成長の鍵は?
次はカンボジア経済の成長の鍵を見ていきます。以下はGDP成長率と産業別の部門寄与度を表したグラフです。
上記の産業別GDPの比率でもサービス業は42%と高かったのですが、部門別の寄与度で見ても近年はサービス業が大きくGDPに寄与しています。観光地であるアンコールワットへの観光客が大きく増加していることが要因となりますね。
2000年の観光客は約47万人でしたが、2016年には500万人まで増加しており、観光収入が右肩上がりとなっています。
引用:カンボジア観光省
カンボジアのようにまだまだ経済規模の小さい国では、観光収入が大きな意味をもちます。工業は縫製業で、まだ軽工業の域でしかなく、今後タイやフィリピンのように製品の最終組み立て型の産業の誘致が海外からも積極的に実施され、本格的な工業産業を中心とした経済発展をしていくことが見込まれます。
カンボジアも貿易相手は?
次に、カンボジアの輸出入(貿易)について見ていきましょう。
まずは輸入先ですが、中国とASEAN諸国であるタイ・ベトナムからの輸入がメインです。輸出の縫製品の元となる、服の生地の比率(35%)が高いです。
引用:国土交通省
主要輸入品目は、
織物(35%)、機械(9%)、電気機器(5%) 、石油製品(4%)、車輌(4%)
となりますね。
次に輸出先となりますが、これは輸入先とは大きく代わり、「先進国」が大半を占めます。輸入した生地から衣服を作って輸出していることが要因です。
引用:国土交通省
主要輸出品目は、
衣類(50.3%)、印刷物(37%)、履き物(3.9%)、穀物(2.1%)、ゴム(1.3%)
となりますね。
主要輸出先の米国への依存が大きく、同国の景気が悪化すると国内の縫製従事者50万人の生活に影響が及ぼすのではとイメージしてしまいそうですが、高級品ではなく、景気が悪化しても「衣・食・住」の衣を担っているので大きな影響はないのではと考えています。
貿易額(2015年)は輸出が119億米ドル、輸入が187億米ドルとなっており、まだまだ輸入依存であることがわかりますね。
カンボジアの株式市場の動向は?
カンボジアの株式市場は2012年4月にオープンしましたが、現時点での上場数は5社となります。PER、PBRを調べるにもデータがなくて分析ができない状況です。ミャンマーとラオスに似たような状況になっています。
あなたがもしカンボジア株にどうしても投資したいと考えているのであれば、カンボジア現地で「銀行口座」と「証券口座」を作成する必要があります。「アシレダ銀行」と「アシレダ証券」であれば両方を同時に開設できますので、手続きを済ませましょう。
私としてはカンボジア、ミャンマー、ラオスのような小さい株式市場規模への投資はおすすめしません。その理由としては、以下の3つです。
株価が適正評価されない
市場規模が小さく、外国人投資家もいない状況下では、新興国である株式市場は間違いなく証券取引に無知な国民が、売買をしています。実際に、カンボジア株式市場がオープンした日に、唯一上場されたプノンペン水道公社は、初日に上限価格で取引されましたが、その後はズルズルと値を下げていきました。
ミャンマーの株式市場を例に取っても、市場オープンから半年も経たないうちに、時価総額が半分となり、国民の意識としても最初こそ盛り上がったが、価格が上昇しないので売り浴びせたことが想像できます。
企業の財務諸表の分析に基づいた理論価格などこれではアテにできず、株式市場の時価総額が増え外国人も参入し始める程度に市場が成熟した段階で参入するのが良いと思います。
そもそもの企業の財務諸表が信頼できない
そして現段階では市場がオープンして間もなく、株式公表についても手探り段階である為、企業が提出する財務諸表にも信憑性が個人的にはあまりありません。
企業を分析する唯一の手掛かりが信頼できないとなれば、これは投資というより「投機」と言えるでしょう。
口座開設の煩雑な作業・手間とそれに係る不安
上記で口座開設は現地で可能と書きましたが、現地で口座を開設するにも、理解が難しい発音の英語で銀行員、証券社員と手続きを進めなくてはなりません。
開設まで辿り着いても、本当に送金して問題ないのか、接収される可能性はないかなど常に不安がつきまといます。海外で口座を開設するのであれば、香港やシンガポールのHSBC等信頼のおける金融機関に限定するのが賢明ですね。
→ 【2018年最新版】おすすめ新興国株式投資先ファンド・ETFランキング
- 『フィリピン株式市場』おすすめ海外新興国を経済・国家政策より解説
- 『シンガポール株式市場』おすすめ海外新興国投資を経済・政策より解説
- 『インドネシア株式』おすすめ海外新興国投資を経済・国家政策で解説
- 『インド株式市場』おすすめ海外新興国を経済・国家政策より徹底解説
- 『ベトナム株式』おすすめ海外新興国投資を経済・国家政策より解説
- 『ブラジル株式市場』おすすめ海外新興国を経済・国家政策より解説
- 『ロシア株式市場』おすすめ海外新興国を経済・国家政策から徹底解説
- 『タイ株式市場』おすすめ海外新興国投資を経済・国家政策より解説
- 『マレーシア株式』おすすめ海外新興国投資を経済・国家政策より解説
- 『イラン株式』高成長・超割安のおすすめ新興国を徹底解剖
- 『新興国株式投資』タイミングはいつ?経済成長の見通しを予測・解説
- 崩壊間近?中国経済の実態・2018年以降の成長可能性を分析・解説
- ASEAN投資は検討すべき?東南アジア諸国連合の概要と今後の発展
- ASEANの現状を経済見通しで解説・投資不安要素は中国の経済減速