世界・日本の経済恐慌解説

アジア通貨危機発生の原因をわかりやすく解説・機関投資家の空売りでタイ通貨暴落

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以前に私は「長年投資に携わった私が考える新興国不動産に投資すべき3つの理由」という記事を通して、新興国への投資をオススメしてきました。

しかし、投資にはやはりリスクがつきものです。

そこで今回は、過去の事例を学ぶことから、想像もしていなかった事象が起きた場合にどのような対処をすべきかを把握するために、

「新興国投資って政治不安とかあってリスク高そう」

「大きなリスクは取れないよ・・・」

という方に向けて、記事を書いていきたいと思います。

過去に起きた世界恐慌、つまり大きな事象としては、以下のようなものがありますね。

  • 2008年:リーマンショック
  • 2001年:ITバブル崩壊
  • 1997年:アジア通貨危機
  • 1987年:ブラックマンデー
  • 1971年:ニクソンショック
  • 1929年:ブラックサーズデー 

 

今回の記事では、新興国投資に最も親和性の高い「アジア通貨危機」の事例を理解していきましょう。

今回のポイント

アジア通貨危機とはタイを中心に始まったアジア各国の通貨下落現象。

アメリカヘッジファンドを主とした機関投資家の空売りが大きな原因。

ドルペック制によるタイバーツの通貨価値上昇の違和感が大規模な空売りを実行された大きな要因。

加えてタイ国政府の経済成長への地力不足も露呈。

最終的にタイバーツは1USD=24.5THB→207.31BTHと歴史的な下落を記録した。

アジア通貨危機とはどのような事象だったかを簡単に把握しよう・インドネシアと韓国は大打撃、日本にも影響

アジア通貨危機とは、1997年7月より「タイ」を中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落現象です。

この事象は、東アジア、東南アジアの各国経済に大きな悪影響を及ぼしました。

さて、なぜこのようなことが起きてしまったのか?

事の発端はアメリカ合衆国のヘッジファンドを主体とした、機関投資家による通貨の空売りがトリガーとなりました。

主に、現在はASEAN5のタイ、インドネシア、その他韓国は大きな経済打撃を受け、IMF(International Monetary Fund、国際通貨基金)管理に入りました。

同じくASEAN5のマレーシア、フィリピン、その他香港も経済被害を被り、中国と台湾は直接の影響はありませんでしたが、間接的な影響被害はありました。

もちろん同じアジアに位置する日本も影響は回避できず、融資の焦げ付きが噴出、タイミングも悪く、日本政府は緊縮財政と消費税増税を導入する段階だったため、1997年と1998年における金融危機の引き金の一つとなってしまいました。

また、これに関連して新興国における通貨不安はロシア通貨危機、ブラジル通貨危機と連鎖反応のように混乱を招きました。

アメリカのヘッジファンド他機関投資家は一体何を仕掛けたのか

ここまで書いた内容ですと、機関投資家が悪魔のようにしか映らないですが、その想像は間違っておりません。

ヘッジファンドなど機関投資家はやはり「収益の最大化」こそが目的であり、どのような局面であろうと儲けが出る方向に全力で走っていくのが常識です。

アジア通貨危機が勃発する前にどのような局面だったのかも理解しておく必要があるでしょう。

まず、わかりやすく結論から解説したいと思いますが、一言でいえばヘッジファンドが仕掛けたのは「アジアの経済状況と為替レートの評価のズレ」に着目しトレードを実施しました。

上記で「アジア経済状況と為替レートの評価のズレ」と言っていますが、欧米ヘッジファンドはアジア(タイバーツ)の通貨が「過大評価」されていると判断したのです。

その過大評価された通貨に大量の空売りを仕掛け、安くなったところで買い戻すという上下動で暴利を得ようと考えました。

  • アジア経済→アメリカ経済政策によって好景気になるも、経済成長が終焉を迎える
  • タイ通貨→経済状況に対して高すぎる判断され、徐々に投資家が売り始め、最後はヘッジファンドが大規模な空売りを仕掛ける(投資していた資金を一斉に引き上げた上で空売り開始)
  • タイ通貨のレートが急落し、タイ政府が買い支えられず通貨切り下げのタイミング(=底値)で買い戻し二段階の利益を得る(ファンドの常套手段)
  • ファンドにとっては空売りが失敗に終わったとしても、結局はタイバーツが上昇するリスクはほぼないので発生する損は限定的

この最後の部分、「発生する損は限定的」が大切です。

投資をする際に、誰でもリスクは考えるものであり、大きな勝負には出られませんが、アジア通貨危機時のヘッジファンドはリスクが限定的であると考えたのです。

経済状況がリスクフリーに近い状況であれば、大規模な売りの仕掛けを実行できるのは理にかなっているところであり、優秀な頭脳を持つ人材がインセンティブを狙って暗躍するヘッジファンドがこの状況になれば、必然の行動だったわけです。

「アジア経済状況と為替レートの評価のズレ」はなぜ起きていた?〜タイの当時の経済状況・メカニズムを理解〜

アジア経済状況と為替レートの評価のズレ」と何度も連呼してしまい恐縮ですが、このズレが生じていた理由としては、「タイの経済状況」と「ドルペッグ制」が採用されていたことが大きなポイントになります。

簡単に言ってしまえばタイの経済状況が低迷しているにも関わらず、ドルペッグ制でタイバーツがドルに連動して通貨の価値が上がってしまっているという「違和感」がこの「ズレ」を指すところです。

では、タイの当時の経済概況を簡単に把握しましょう。

タイは80年来、自国の企業を積極的に誘致し、海外への輸出志向型の経済開発を進めてきました。そして、87年以来、なんと平均9.5%もの経済成長を遂げてきました。

タイ国内からの直接投資も95、 96年には12億米ドルを超え、輸出の伸び率を2桁台に乗せていたのです。

このような経済成長を見せながらも実際には、政権が不安定であり、経済政策への取り組みも強固なものではなく、次なる施策が追いついておりませんでした。

また諸々の問題も起き始めました。

例えば、

  • 低失業率を背景とした公務員給与、最低賃金の引き上げによりインフレ圧力上昇
  • 経常収支、市場資金による赤字補填
  • 金融・経済システムの整備の遅れ
  • ベトナムの台頭による輸出競争力の低下による経常収支赤字拡大(タイにおける1997年GDPに占める輸出入割合:輸出依存度33.6%、輸入依存度36.5%)

など、まだまだタイは経済成長をするには地力不足だったことは否めません。

経済低迷により、1997年度は歳入の減少が予想されるとし、タイ政府は10年ぶりに財政収支が赤字化するとの予想を公表してしまいました。

このような背景が、タイ通貨を売り始めていた投資家、大掛かりな空売りを始めたヘッジファンドの強いモチベーションになったと言えます。

「アジア経済状況と為替レートの評価のズレ」はなぜ起きていた?〜ドルペッグ制の採用〜

1990年代のアジア諸国は、自国の通貨をドルに連動させる「ドルペッグ制」を採用していました。

ドルペッグ制について定義を確認しておきましょう。簡単に言えば、世界の基軸通貨である米ドルと連動させる仕組みにし、貿易や投資など海外取引においての為替リスクを縮小させる固定相場制のことですね。

ドルペッグ制は、自国・地域の通貨と米ドルの為替レートを一定割合で保つようにすることをいいます。これは、自国・地域の通貨レートを米ドルに連動させる仕組みであり、現在、香港ドルや中東産油国の通貨などが採用しています。

これは、自国・地域の通貨レートを米ドルに連動させる仕組みであり、現在、香港ドルや中東産油国の通貨などが採用しています。

また、ペッグ制とは、固定相場制の一つで、経済基盤の弱い国や不安定な国が、自国の通貨レートを経済的に関係の深い大国の通貨レートと連動させる仕組みをいいます。なお、固定相場制には、ペッグ制のほかに、複数通貨の平均値との連動を図る通貨バスケット制などもあります。

引用:ドルペッグ制

結果的に、発展途上国であったアジア諸国に、欧米を中心とした潤沢な海外MONEYが流入しました。

大きな資金が設備投資に当てられ、特にタイの経済成長に大きく貢献したのでした。

しかし、タイの経済が不振を見せ始めたのは上述した通りですが、それに加えてアメリカが「強いドル」政策を打ち出し、為替が緩やかな「ドル安」→「ドル高」にトレンドが変わりました。

「強いドル」政策

米国が伝統的に掲げてきた「強いドルが国益にかなう」とする通貨政策。強いドルは健全な米経済の成長を反映しているとの考え方が背景にあり、海外からの巨額の資金で米国債の需要を支える米財政政策の生命線でもある。ドル高は海外からの輸入物価の引き下げにつながり、国内の消費者には一定の恩恵がある。

引用:「強いドル」政策

すでに競争力が低下していたタイの対外輸出競争力が、ドル高によりさらに下がり、大口取引先であったアメリカの経済も縮小していたため、経常収支の赤字は拡大の一途を辿りました。

問題はここからなのですが、ドル高は進行し経常収支が赤字になっているにも関わらず、ドルペッグ制を採用しているタイのバーツの価値も上昇していったのです。

つまりは、もっと価値が低いはずのバーツが上昇しすぎていることにヘッジファンドが気づいたわけですね。(タイミングを見計らっていただけかもしれません)

ヘッジファンドは通貨の空売りをタイに容赦無く浴びせ、タイ政府は自国通貨の買い支えできなくなり(外貨準備高不足)、通貨の切り下げを実施。

通貨切り下げ

固定相場制を採用している国が、自国通貨が弱くなるように為替レートの交換比率を対外的に引き下げること。

通常は当該国の中央銀行が、ドルに対する交換比率を変動させます。通貨切り下げは、通貨価値の下落に伴い輸出品の価格も下落するために輸出先での価格競争力がアップすることになりますが、輸入品の価格上昇を招きます。

日本や米国など変動相場制を採用している国では、市場原理により適正な為替レートに自動的に調整されるため、通貨切り下げはありません。

引用:通貨切り下げ

そして通貨を切り下げたタイミングでヘッジファンドは「買い戻し」をしたわけです。

ヘッジファンドに大敗を喫したタイ国政府はバーツを変動相場制に移行を余儀なくされました。

為替レートは1USD=24.5バーツから、1ドル=29バーツに急落し、通貨の信用不安に陥り、せっかく集めた外国資本は逃げていってしまいました。

完全なるバブル崩壊ということですね。ドル高により対外債務(USD)の支払いもできるはずがなく、IMFというカルパチア号に融資で助けてもらうしかなくなったわけです。

IMFに助けてもらったとしても、タイは自国で再建できる状況ではなく、通貨は半年後に結果的に1USD=50バーツまで下がったのでした。

ここで通貨の変動は落ち着くかと思われましたが、翌年にはなんと1USD=207.31バーツと歴史的な下げを記録しました。

この歴史的な通貨下落が、アジア各国の経済危機に波及したことは言うまでもありませんね。

ここまでの流れを「アジア通貨危機」と呼びます。

この後、タイは通貨が弱くなったことを機に、貿易収支を改善し、現在のような経済成長を遂げています。

経済危機に陥った後の状況・政策次第で新興国は経済回復の速度が変わってきますので、日頃から投資を検討している国の政策は把握する必要がありますね。